うみっぺた

砂地の白い白い畑と松林を潜り抜けると
海が見える
通勤ルートを変えた
みな100キロで飛ばす。さながらアウトバーン
風にはこばれた白砂が道の両端につもって
ちいさな砂丘をこしらえる
カーテンの揺れで風を表現した画家がいたが
ここでは砂がその役目を担う。


茫漠とした砂地には
ちいさな芽吹きが始まった
イカかな
タバコかな
そのうちスプリンクラーが回りだすのだろう
ひっきりなしに水をかけないと
砂地の水はけのよさは命を乾かす


ひょうひょうとそびえる松を横目に
朝を楽しみながら走る


この道は朝と夜で全く違う顔


電燈がない
反射板が綿々と連なってろうそくの火を思わせる
左右にどこまでも続く松林はまっくろいアウトラインしか認知できない


後ろにも、前にも車がいない


バックミラーに遠く、鬼火のような光が映る
バイクだろう
バックミラーは本当に真っ黒で
鬼火しか見えない


少し距離が縮まった
ひとつの光だったからバイクのライトだと思ったら
右のライトが壊れた片目のセダンだった


ふいに黒いものが飛び出す
タヌキだ
観ると、すでに血を流して横たわっているタヌキに
駆け寄ったもう一匹
危うく轢くところだった
駆け寄った子が轢かれないといいと思う


翌朝、きっとカラスが食べて真っ赤な肉塊になっているんだろうと
注意深く運転したが
なきがらは忽然と消えていた
大きな獣が引きずっていったのかな
けがを押して、自ら立ち上がったのかな


タヌキを轢きたくないので
夜は街を走ることにする