マイケル婆さんとオペ爺さん

会社の隣の高級そうなマンションの軒先に、
ピンクのかわいい花びらが上品に沢山重なった椿が植わっており
管理人と思しき男性が
毎朝、必ず掃き清め、落ちた花びら一枚も残さずあのハサムヤツで拾いあげる。


そのすべらかな神経質そうな動きを目の当たりにして、
しじまの職場にたどり着くまでの数分
いつも思い出す女性がいる


その人は隣町の洋食屋さんで働いている
こじんまりとした店で、
彼女とシェフのおじさん二人で切り盛りしている


そこのサラダは、これでもかと水気を完璧にきったあと
ゆっくり正確に
小さなリーフたちをトングでひとつひとつすくいあげる
けっしてがさっとわしづかみにしない
ひらひら動く手とうらはらにトングは無機質さを強調したデザインで
つめたく鉛色で、
まるでオペのよう。


あの花びらを、
少しの間違いもなく、
手順通りにつまみあげたら、
気難しい顔を少しは柔らかにできるかしら。
それには洋食屋の彼女が必要。


わたしがそんな一人遊びにいそしんでたらば、
そのマンションからもしゃもしゃの偽毛皮みたいなパンツをはいた派手な婆さんが飛び出して来て、
ワォ!と叫んで、柾谷小路を渡っていった。


あのマイケル婆さんと
オペ爺さんが夫婦なら、
こんなにも均衡を重視したカップルは他にいない。


近所の黒ネコたちが魔法を使ったから、
作業場にしていた車庫のシャッターが壊れた。
わたしも壊れてきました。